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次世代金融犯罪の全社的リスク評価(EWRA)

一月 12, 2026
iStock.com/Blueastro

金融サービス業界が急速に変化、高度化するなか、金融犯罪リスクはこれまでになく高まっています。堅牢な金融犯罪リスク管理フレームワークの確立は、極めて重要となっています。全社的なリスク評価(EWRA)は、その中核的要素として、リスクベース・アプローチを支え、コンプライアンス態勢を維持するうえで、重要な役割を果たしています。

しかし、その実効性は近年厳しく検証されるようになっており、競合他社や技術ベンダーと差別化するための革新的なアプローチが求められています。リスク評価は、形式的な確認作業にとどまるべきではなく、金融犯罪対策におけるリスクベース・アプローチの戦略的中核となるべきです。EWRAは、変化する状況に対応するために進化することが不可欠であり、その進化を支える基盤的能力を整備する必要があります。本稿では、この点を詳しく取り上げます。

リスク評価の現状に挑む

全社的リスク評価(EWRA)は、多くの場合、形式上は規制要件を満たしているものの、
古い手法や、組織横断的なガバナンスおよびリスク管理フレームワークとの連携不足により、その実効性が不十分となっています。EWRAは、静的でコンプライアンス主導の定型業務から脱却し、真の価値を生み出す動的で実行可能なツールへと進化しなければなりません。

  1. 実践可能:リスク評価は、組織のガバナンス、リスク管理プロセス、変革計画に直接組み込める実践的な成果を導き出す必要があります。また、限られたリソースを最適に配分するためには、固有リスクと残存リスクに基づく経営上の方針決定を行うことが不可欠です。これらのインサイトを統制フレームワークに組み込むことで、組織の意思決定の質を高め、統制活動の実効性を追跡することができます。
  2. 整合:効果的なEWRAは、リスク管理とコンプライアンスの両方の目的を満たすものである必要があります。EWRAを統制テストやモニタリングなどの他の金融犯罪管理プロセスと統合することにより、組織全体で一貫性のあるリスク認識を得ることができます。これは、具体的には、共通の統制ライブラリを整備し、EWRAの結果を次回の同評価に反映させる形で行います。
  3. 深度:効果的なEWRAは、関連する法規制、当局ガイダンス、そして各国の国家リスク評価を広範にカバーする必要があります。特定のリスクを詳細に掘り下げることで、EWRAは個々の統制の設計およびテストに具体的なインサイトを提供できます。
  4. 適時性: リスク評価の妥当性を維持するには、より高頻度かつ変化に適応した形で実施する必要があります。動的なリスク評価アプローチを導入することで、組織は新たなリスクに先行的に対応できるようになります。
  5. 測定可能: 規制当局は、EWRAをデータに基づく定量的プロセスとして実施することをより一層求めています。リスクを定量化することで、組織はリスク許容度の指標に照らして自社の対応状況を測定することも可能となります。

主なイノベーション動向

全社的な金融犯罪リスク評価(EWRA)は、規制当局が求める要件を確実に満たすよう、明確に文書化された方法論に基づき、設計・構築しなければなりません。イノベーションは、主に以下の3つの領域で進展しています。

  1. 金融犯罪リスクの統合:複数のリスク区分を単一のリスク評価プロセスに統合することで、大きな相乗効果が得られます。マネー・ローンダリング、テロ資金供与、制裁回避、脱税、贈収賄といった金融犯罪リスクの評価を組み合わせて行うことにより、リスク管理の効率が向上し、より総合的かつ包括的なリスク認識が可能となります。

    もっとも、各金融犯罪リスクには、分野ごとの知見や深堀りが必要です。固有リスクの要因については、個別の統制措置および専門的知見が引き続き求められるが、これらを共通の金融犯罪EWRAに組み込むことは可能です。

    包括的なEWRAを実施することで、人材、関係者の対応、時間・予算などのリソースをより効率的に活用し、金融犯罪リスクのエクスポージャーをより総合的な視点から把握することができます。その結果、統制改善施策とアクションプランの一貫性が向上します。

 

  1. データとテクノロジーによる強化:先進的な組織では、EWRAにおける固有リスクおよび統制を評価するようになっています。これは、定量的なデータ主導型の分析を中心としつつも、専門知識や業務知見といった定性的判断とのバランスも取っています。

    固有リスク評価を具体的なデータポイントに基づいて実施することで、コスト効率の向上を実現させています。これらの組織では、EWRAに必要なデータを大量に抽出・生成できるため、規制要件の大部分をデータに基づいて評価することが可能となっています。これは一度では完成しない反復的なプロセスです。初期段階においては、データの入手可能性が課題となるかもしれませんが、代理指標の使用や定性的情報との組み合わせといった、適切なツールや手法を活用することで、これを克服することができます。

    先進的なツールの活用により、組織はデータ収集やリスク評価計算のプロセスを自動化し、リアルタイムに近い形でインサイトを得るとともに、手作業による負担を軽減できます。自動化及びデータ分析の活用により、組織は従来の年次評価から継続的なモニタリングへと移行できます。これを「継続的EWRA」といいます。

    このアプローチにより、リスクインサイトが一層実践可能で意味のあるものとなります。この成熟段階に達した組織では、生成人工知能(生成AI)を活用し、詳細なリスク評価レポートの作成を迅速化することができます。これにより、EWRAの実行プロセスは、従来は高コストかつ年1回実施されるにとどまっていた手動または半自動的な作業から、数週間で完了する迅速かつ高頻度のプロセスへと変わります。その結果、組織は金融犯罪リスクおよび統制状況をほぼリアルタイムで可視化できるようになります。

 

  1. ガバナンス統制の強化:テクノロジーの統合は、既存のリスク評価プロセスと相乗的に作用し、2つの統制領域をさらに強化します。
  • 経営情報と報告: 実践可能な情報にタイムリーにアクセスすることで、意思決定者はリスク・エクスポージャーの変化に迅速に対応することができます。
  • リスク許容度の定量化:詳細なリスク許容度指標を定量的に設定することにより、組織は閾値の設定・モニタリングを効果的に実施し、抽象的なリスク方針を、具体的で測定可能な成果へと転換することができます。

将来に備えた金融犯罪EWRAのための基盤的能力

金融犯罪の予測が困難となるなか、組織は俊敏かつ先見的なリスク管理態勢が求められています。全社的な金融犯罪リスク評価(EWRA)を変革するには、組織内で一定の基盤的能力を構築することが求められます。これにより、単に規制当局の要求水準を満たすだけでなく、リスクインサイトを最大限に活用することができます。以下の能力は、組織が革新を推進する上で極めて重要です。

  1. インテリジェンスとインサイト:規制当局の脅威インテリジェンス、リスク類型、トレンド情報にアクセスすることで、組織はリスクを予見し、軽減措置を講じる能力が高まります。効果的な金融犯罪コンプライアンスの実現には、人材、規制に関する知見、先進的なテクノロジー、堅固なプロセスを統合する必要があります。この相乗効果により、組織は金融犯罪のリスク環境における新たな変化を継続的かつ有意義に評価できるようになります。
  2. データ品質: 高品質で信頼性の高いデータは、正確なリスク評価を支える基盤となります。堅牢なデータ・ガバナンス体制への投資により、組織はデータの完全性を確保し、さらにネットワーク分析、動的エンティティ解決、信頼性の高い外部データソースなどの既存の技術的能力も活用できます。
  3. 自動化: 金融犯罪対策に特化したEWRAアプリケーション、データ分析ツール、および生成AIを採用することで、金融機関はリスク評価に要する時間を短縮し、全体的な業務効率を高めることができます。新世代のガバナンス、リスク、コンプライアンスソリューションは、金融犯罪リスク評価のニーズに特化した自動化機能を提供しています。
  4. 経営層による後押し:最後の基盤的能力は、金融犯罪EWRAの変革を成功に導くうえで決定的となります。経営層がどれだけ積極的に関与するかが、プロジェクトの成否を分ける要因となります。経営層は、変革の取り組みに必要な財務および人的リソースを適切に配分する権限と責任を有しています。経営層がトップとして明確な方針を示すことで、金融犯罪リスク管理の強化が重視されるようになり、説明責任とコンプライアンスを重んじる健全な組織文化を醸成することができます。

業務モデルの再定義

多くの先進的組織は、EWRAをガバナンスおよびリスク管理の枠組みに組み込むために、以下において自社の業務モデルの再構築を進めています。

  • 第1および第2の防衛線間の関係者連携を強化
  • 新興テクノロジーを活用し、グローバルな金融サービスグループの複雑性に対応可能なスケーラブルなソリューションを開発
  • EWRAからのインサイトが戦略的な意思決定プロセスに円滑に反映されるよう統合

これらの革新的なアプローチを採用することにより、金融機関は全社的な金融犯罪リスク評価(EWRA)を、単に規制当局の要求水準を満たすだけでなく、戦略的差別化を推進する動的で付加価値の高いツールへと発展させることが可能となります。

Pedro Arevalo, PwC英国法人, 金融犯罪・サイバー・フォレンジック部門, (英国・ロンドン)pedro.arevalo@pwc.com,

免責事項:本稿で記載された見解は、著者個人のものであり、所属組織の公式な見解を示すものではありません。

 

 

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